間違う人、間違わない人々

 

仕事帰り、大勢の人が電車を降りて足早にホームを抜けていく。駅構内の通路で周りに流されていく途中、目の端におろおろと佇む外人さんが見えた気がして、少し行ったところで引き返して声をかける。すると日本語で書かれた札を見せてくれて、そこには無機質な文字で

「〇〇といいます。生活に困っています。お菓子を販売しています」

とある。どうやら個包装のお菓子5つほどを詰め合わせたものを500円で売っているようだ。

一瞬、あーよくある詐欺まがいのやつかな、と身構えたが、すぐさま反省してお菓子をひとつ購入した。

売れたところでたった数百円の利益だというのに、百均に置いてあるような小袋で丁寧に包装されたお菓子がその女性の手提げにはまだ一杯に入っていた。慣れない手つきで、通行人に躊躇うように手を上げてはすぐに引っ込め不安げに立ちすくんでいたし、肌が黒いというだけでみんなが避けて歩くようなこの国で、いったいどれほどの苦労があるのかは想像に難くない(想像出来ないほどに)。

立ち去る間際、雑踏にかき消されるような小さな声でthank you so muchと言ってくれた。マスクをしていても分かるような笑顔で、一度は金を出すのを躊躇ったおれに、感謝の言葉を……

普段自分は寄付なんてしない。狭く閉ざされた世界が大好きだから。それをこうもだだっ広いだけで息苦しい現実を突きつけられると、簡単に泣いてしまいそうになるな。

なんにせよ、行動しなければ間違うことも出来ないのだ。人間は騙されるくらいのお人好しがちょうどいい。

また見かけたら何度でも買おう。自分の手の届く範囲で、誰かが喜んでくれるならこれ以上の幸せはない。誰にだって、不安な夜なんて来てほしくはないのだ。