素っ頓狂に叫びたい

 

「──この世を楽しく生きる一番の方法は、馬鹿でいることだ」

 

ってどこかの誰かの名言があるに違いない。

生きていて、賢くて得をすることなんて何も無い。知らなければ知らないほど、無知であればあるほど人生は楽しい。

それは行ったことのない場所、食べたことのない食べ物、見たことのない景色、知らない感情、ゲームの攻略情報、恋人の裏アカウント、世界情勢、宗教、隣人の趣味、何でもいい。

 

知っていることは悲劇だ。知識は毒だ。もう何も見たくない。

僕は素っ頓狂に叫びたかった。

 

生きていて僕らに出来ることは「考えること」だけだ。

何をすべきか、誰に、どんな言葉をかけるべきか。答えはいつだって存在しない。だからいつだって後悔は遅れてやってくる。文字通り後からやってくる。

あぁ、考えるより先に、この身体が動けばよかったのに!

僕はなるべく、素っ頓狂に叫びたかった。

素面で、平気な振りして、穏やかな平和主義者で、何も知らない馬鹿でいたかった。

 

楽しいことはいくらでもあるのに、悲しいことばかり思い出す。理解者は遅れてやってくるのだっけ?

僕らは思っているより君のことを知らないし、君は思っているより僕のことを何も知らない。

深夜、虫の鳴き声、知らない鳥が飛び立ち、知らない猫たちが出会う。

何が幸せなのか知らないまま語り合う。

誰も知らないところで詩を書き、写真を撮り、歌い、歩いて、眠りにつく。誰もがそうだ。

 

こんな所で格好つけてないで、僕は

素っ頓狂に叫ぶべきだった。