静かな場所で

 

ただ静かに、美しく生きる。

それだけのことがなぜこれほどまでに難しいのか。

 

海へ散歩に行った。最近は週に一回のペースなので通っているみたいになってきた。

ここは大して都会でもないけれど、少し離れることで喧騒を忘れてようやく息がつける。波の音、水鳥の鳴く声、浜辺に佇む人。遠くには車が絶え間なく行き交っているのが見える。

海を眺めているとだんだんと時間の流れが遅くなってきて、やがて自分の生きる速度と重なり合う。息を吸い込むと呼吸の仕方を忘れていたみたいに、身体中に新鮮な空気が行き渡っていくのが分かる。

ああ、人間とか、苦手なんだろうな。

そんな事を考えるのは恐ろしいので、あまり考えないようにするに尽きるのだけど。

 

詩集を頂いたのでお供に持って行った。販売はされてないので大切にしたい。

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美しい詩だ。長々と感想と送ると、これまた長々と感謝の言葉が返ってきたので、その人のことをもっと好きになった。

 

ただ静かに、美しく生きたい。

本当は小高い丘の上に一軒の家を建てて、毎朝太陽の光や鳥の囀りで目を覚ましたい。もしくは渚という言葉の似合う港町で日銭を稼ぎながら、海を眺めて暮らすのだ。

でも文明が、社会が、常識が、人間関係が、プライドが、経験が、不安が、それを許さない。

自由のもっともっと外には不自由が広がっていて、宇宙みたいに今も広がり続けている。僕たちは生きているだけで、生まれただけで、たくさんの事を諦めなければならない。見て見ぬふりをしているのか本当に気付いていないのか分からないけれど、みんなはこんな困難をどう隠し持って生きているのだろう。

迫る隕石から目を背けるみたいに、僕はずっと街なかで裸になって叫び出したいのを我慢しています。

 

電車に運ばれて働きにゆく。お金を貰う。服を着る。食べ物を食べる。慌ただしく過ぎるこんな毎日を日常と呼びたくはない。

太陽の光で目を覚まして、花に水を遣り、木々に季節の移り変わりを感じて、海を眺め、飛ぶ鳥に目を細めて、詩を読み、文章を書き、美味い珈琲を啜り、温かい夕飯を食べる。ただそういう暮らしがしたいだけだ。

静かに、美しく生きる。

それだけがこうも。

こうも難しい。