両手じゃ抱えきれない
断捨離という事で、服の話をしたい。
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ごちゃついた我が家、狭いワンルームだが、見渡すと規則性のかけらもない雑多な置き物や本、小物なんかが目に入る。そのどれもが愛おしくて、今の私を形作ってくれる大切なものばかりだ。
使わなくなったり、置く場所がなければクローゼットの隅へと仕舞い込む。決して乱暴にはせず、優しく、丁寧に隅へと押し込んでやる。そうすることでいつかまたひょっこりと顔を出し、ほんの少し生活を豊かにしてくれることだろう。
けれど、服だけはどうも趣が違う。今の私を作るどころか、「過去の自分」そのものである気がしてくる。
きっとそうだ。
私が過ごした冴えない季節の数々は、この服たちのせいだったに違いない。
服を捨てた。
とりわけ、優しくて誠実そうな服を選んで捨てていく。そんな自分を切り捨てるように、容赦なく。
鏡の前に立ち、何ら変哲のない灰色のセーターを胸に当てる。似合わないな、と思う。この服を着ていた頃の自分にはもう戻れないのだ。
私の抜け殻で、ビニール袋は歪な形に膨らんでいた。
昔と比べおとなしい服しか着なくなった友人もいる。彼には最近恋人ができた。なるほどね。良い出会いをしたのだね。
少し寂しくも感じたけれど、似合うじゃん、とだけ言っておいた。
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もっといろんな服を着たい。自分、まだやれます。
少し逆説的にはなるけれど、着ていた服が過去の自分であったように、これから着る服が未来の自分を作っていくのだと思う。だから似合う服ではなく、着たい服を着るべきなのだ、本当は。
もう一度部屋を見渡す。残った服はどこか自信に満ちていて、私は胸を撫で下ろす。これでよかったのだ。
新しいものを得るには古いものを捨てなければならない。捨てたいものがなければそれでいい。
これからしばらくは今の服を、今の自分を、大切にしていこう。先のことは分からないけれど間違っていないことは分かる。
似合ってるねと言ってくれる友人が、私にもいる。