雑記0326

 

あれは、高校の卒業式のあとだったと思う。クラス全員が一人ずつ「将来何になりたいか」を発表していく時間があって、教室の後ろにはクラスメイトの保護者(大事な式典でも大抵は母親だった)がずらりと並んでいる。出席番号の順に席を立ち、将来は警察官に、パン屋に、看護師に、あるいは大学でこんな事を頑張りたいと、まるで用意された解答を読み上げるように話していく。もちろん僕にも模範解答はあったが、それはお世話になった教師や友人達への最後の手向けとしてはいささか嘘っぽかったし、最後くらい自分の言葉で話したかった。

あっという間に自分の番が回ってくる。席を立ち、必死で考えた言葉を口に出した。

「立派な大人になりたいです」

初めに笑ったのは僕をよく知る友人だった。つられて周りのクラスメイト、教師、誰の親かも分からない保護者、教室全体が暖かな笑いに包まれていった。

僕だけが笑っていなかった。

 

イヤな思い出だ。たまに思い出しては胸がきゅっと締め付けられる記憶がいくつもある。

雨の日はロクなことがない。靴下は濡れて気持ち悪いし、玄関先はかび臭いし、アパートの前に咲いていた木蓮は雨の音に紛れてすべて散ったようだった。

よく「嫌なことの後には良いことがある」とか言うけれど、世の中はそんなに上手いこと出来ていない。正義は勝つ、努力は報われる、信じるものは救われる。そういうバイアスのかかった考え方を「公正世界仮説」と言うらしい。世の中はたしかに素晴らしいこともたくさんあるが、公正ではないし、非情で、意地悪だ。

何をしてでも、自分だけは幸せにしてあげるべきだと最近は思う。他人の非難なんてものはなんの価値もないと気付きました。譲り合う余裕はないのだ。

あなたはあなたを幸せにしてください。

雨は止む。それだけは、平等に真実らしかった。