海辺の彼女
散歩するコースは決まっていて、家の近くの小さな公園を横目に歩いていくと大きな公園に着く。その公園のすぐ裏にある橋の下をくぐると海が見える。この「橋の下」というのがいかにもな落書きスポットなのだけど、私には好きな絵があった。
彼女だ。彼女はたおやかで海が似合い、目を引く美しさがあった。
ちなみに以前この写真をTwitterに載せたところ「わたしもよくここを散歩します」ってリプが来てガチ身バレ案件だったので、それからは期待と怖さ半分で歩くことにしている。
ところが最近、爆音でスピーカーを鳴らしスケボーを乗り回すグループがたむろするようになった。その時期から落書きが一気に増えるようになったのだ。
あぁ……醜い……やる気がないなら帰ってくれ。彼女に触れるな。
これが結構なショックで、彼女以外の落書きを全部自分で消してしまおうかとも考えた。
そしてつい先週くらいにも彼女に会いに行った。これ以上君が苦しむようなら、僕も頑張るからね。
っあ゛ぁ゛!!
う゛ぅ゛ぅ゛っ!!
いや、仕方がない事だったんだろう。一緒には居られない運命だったんだ。これでよかったのかもしれない、これ以上彼女が苦しまずに済むのなら。彼女はその儚い存在をめいっぱいに示した。私が証人だ。全部これでよかったんだ。
波の音が聞こえる。
海の向こうから、あるはずのない彼女の存在が、かすかに感じられた気がした。